1700人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
翼の隙間からちらりと顔を覗かせて、伊織はじっと私を見つめていた。
茶色い翼、茶色く長いくせのある髪、茶色い瞳。
服も茶色の長いTシャツで、靴はなく、裸足だった。
それにしても…。
「ねえ伊織。どうしてそんな怪我をしているの?何かの引っ掻き傷や噛まれた痕なんかもあったけど…」
「…猫に、虐められた」
「猫?」
猫に傷付けられたにしては、とても深い傷痕ばかりだった。
俄かには信じられない。
もしかして。
「…人の形をした、猫?」
「?う、ん?猫はね、耳がつんつんで、尻尾が細いの」
「えっと…私や伊織みたいに腕があって、二本足で歩く?」
「うん。走るとき腕も使うの。にゃんにゃん言うの。猫、伊織たち、食べる。弱いのから食べる。だから伊織、虐められた」
「そんな…誰も守ってくれないの?」
「お母さん死んだ。お父さん、『茶の君』。伊織だけ守る、駄目」
伊織は俯く。
…この子も、一緒なんだ。
私と…。
「…その、『茶の君』って?」
「うんとね、伊織たち、茶の民言うの。それの…王様?かな」
「王様?凄いね、じゃあ伊織は王女様なんだ」
「?伊織、女違うよ」
「え」
私は目を丸くする。
伊織はその可愛らしい顔できょとんとしていた。
女の私より何倍も可愛いのに、男だったなんて。
私は地面に両手をつき、がっくりと項垂れていた。
すると、伊織が寒さで体を震わせる。
「…寒い」
「そうね…もう夜だし、帰らないと。伊織は帰れる?」
「平気。今なら猫もいないし、狼もまだ来てないから。でも…」
伊織がじっと私を見つめる。
その顔はどこか悲しげだった。
最初のコメントを投稿しよう!