翼の人

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  翼の隙間からちらりと顔を覗かせて、伊織はじっと私を見つめていた。 茶色い翼、茶色く長いくせのある髪、茶色い瞳。 服も茶色の長いTシャツで、靴はなく、裸足だった。 それにしても…。 「ねえ伊織。どうしてそんな怪我をしているの?何かの引っ掻き傷や噛まれた痕なんかもあったけど…」 「…猫に、虐められた」 「猫?」 猫に傷付けられたにしては、とても深い傷痕ばかりだった。 俄かには信じられない。 もしかして。 「…人の形をした、猫?」 「?う、ん?猫はね、耳がつんつんで、尻尾が細いの」 「えっと…私や伊織みたいに腕があって、二本足で歩く?」 「うん。走るとき腕も使うの。にゃんにゃん言うの。猫、伊織たち、食べる。弱いのから食べる。だから伊織、虐められた」 「そんな…誰も守ってくれないの?」 「お母さん死んだ。お父さん、『茶の君』。伊織だけ守る、駄目」 伊織は俯く。 …この子も、一緒なんだ。 私と…。 「…その、『茶の君』って?」 「うんとね、伊織たち、茶の民言うの。それの…王様?かな」 「王様?凄いね、じゃあ伊織は王女様なんだ」 「?伊織、女違うよ」 「え」 私は目を丸くする。  伊織はその可愛らしい顔できょとんとしていた。 女の私より何倍も可愛いのに、男だったなんて。 私は地面に両手をつき、がっくりと項垂れていた。 すると、伊織が寒さで体を震わせる。 「…寒い」 「そうね…もう夜だし、帰らないと。伊織は帰れる?」 「平気。今なら猫もいないし、狼もまだ来てないから。でも…」 伊織がじっと私を見つめる。 その顔はどこか悲しげだった。
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