翼の人

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  「私は佐奈。貴方の名前は?」 「…い、伊織…」 「伊織。私は貴方に酷いことをしたりしない。約束する。だから、手当をさせてほしいの」 「…さ、佐奈…佐奈、ニンゲン?」 「ええ、ニンゲンよ。でも大丈夫。私は伊織の味方だから」 「…」 伊織が体を引きずりながら、私に近付く。 私の頭を恐る恐る触り、そして背中を探るように触れた。 それはまるで、羽根を探しているようだった。 「…ニンゲンだ。ニンゲンに触っちゃった…」 「伊織、手当してもいい?」 「…う、うん」 私が顔を上げると、伊織は少し体を強張らせた。 けれど安心させるように微笑めば、伊織は体の力を抜いた。 私は鞄から水とハンカチを取り出し、傷口を洗う。 彼女の翼がばさりと音を立てて広がった。 「い、いた、痛い!痛い!佐奈やめて!伊織痛い!」 「いい子だから我慢して」 「佐奈、佐奈」 彼女はまるで子供のように泣き出してしまい、私の胸にしがみつく。 私は困ったように笑いながら、伊織の頭を撫でた。 夜もこんな気持ちだったのだろうか。 「伊織。いい子だから、我慢して?ね?」 「…うん」 伊織はそっと私から離れたけれど、私のスカートの裾を握りしめたままだった。 本当に子供みたいだ。 見た目の年齢は伊織の方が私より年上に見えるのだが。 私は鋏を取り出し、タオルを切り分けて傷口を縛った。 「はい、もう大丈夫だからね」 「…ありがとう」 「どう致しまして」 私が微笑むと、伊織は赤くなった顔を隠すかのように、翼で自分を覆い隠した。 それがとても可愛らしく思えた。
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