初恋の人

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  幼い頃、私は祖母の言い付けを破り、一人で山奥に入っていった。 父は私が生まれる前からおらず、母は昨年亡くなり、祖父母が私の親代わりだった。 二人ともとても優しかったけれど、私が山奥へ入ろうとすると、まるで人が変わったかのように怒った。 『あの山には恐ろしい神様がいるの。勝手に足を踏み入れると、祟られちまうんだよ』 二人はそう言って私に危険な場所へと行かせないため、怖がらせようとしていた。 けれど私はそれを聞いた途端、絶対に山奥へ行こうと決心した。 神様にお願いをしよう、と。 母さんを生き返らせてほしい、と。 私は小学校から帰ってきてすぐ、友達のところへ遊びに行くふりをして山奥へ出かけた。 冬の風が肌を刺すように冷たい時期で、山に着いた頃には、夕日は殆ど沈んでいた。 暗い夜道が怖くなり、私は何度も叫ぶ。 「ごめんください、かみさま、いませんか?」 声をかけても返事はなく、代わりに強い風が木々を揺らす。 沢山の鴉がこちらに向かって鳴いている。 私は涙目になりながらも、茂みを掻き分けて進んだ。 「かみさま、おねがいします。おかあさんをいきかえらせてください」 まだ小学校に入学したてのほんの小さな子供には、人が蘇ることなど有り得ないとは、理解できなかった。 夕日が沈めば、真っ暗で何も見えなくなる。 冬なので虫の鳴き声なども聞こえず、唯一聞こえる梟の声も、ただ不安を煽らせるだけだった。 それでも私は帰ろうとしなかった。
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