初恋の人

3/5
1700人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
  「かみさま、いませんか?かみさま、」 がく、と体が倒れる。 踏み出した先が崖だったのだ。 暗いせいでよく見えず、私は崖下に落ちてしまった。 「…い、た」 幸い崖は然程高くなく、頭と膝に擦り傷を負っただけで済んだ。 けれど痛みと恐怖で、私は大声を上げて泣きわめいた。 「いたいよー、こわいよー、さむいよー、おかあさぁん…!」 どんなに泣いても、誰も助けに来てはくれなかった。 その上、ただでさえ風が冷たいのに、突然雨も降り出してしまった。 雨を遮る物もなく、そこから動けない私は、凍えるような寒さに震えていた。 「おばあちゃん…おじいちゃん…ごめんなさい…ちゃんということ、きくから。だからたすけて…」 泣きながら、自分の小さな体を抱きしめる。 すると突然、誰かがこちらに歩いてきた。 私は顔をあげる。 そこには、真っ黒な服を着た、真っ黒な髪の青年が立っていた。 彼は私を見て優しく微笑む。 「…大丈夫?」 「う、ふえっ。うっ。うえーん」 私の前で膝をついた彼に、私は飛び付いた。 涙と鼻水を垂れ流しながら、私は彼の胸に顔を擦り付ける。 彼は私を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。 「よしよし、いい子だから泣くのはおよし。寒いなら暖めてあげよう。痛いなら撫でてあげよう。怖いのなら抱きしめてあげよう。だから、もう泣くのはおよし」 「…う、うん」 私は鼻を啜り、なんとか泣き止んだ。 すると彼は笑って何度も頭を撫でてくれた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!