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「いい子だ」
「…でも…さむいよ…あめが」
彼に抱きしめられていても、雨に濡れ続けては体は冷えるばかりだ。
すると彼は、少し困った顔をした。
「そうだね…君は今日見たこと、誰にも話さないって約束できる?」
「うん。やくそくする」
「約束だよ、絶対だからね」
ばさり、と彼の背中から大きな黒い翼が生える。
その翼は私を覆い、雨を防いでくれた。
まるで夜の闇のように真っ黒な、大きくて立派な翼だった。
私は目を見開く。
「すごい!おにいちゃん、はねがはえてる!」
「…怖くない?」
「こわい?どうして?」
私は首を傾げた。
もう貴方がいるのに、怖いものなんて何一つなかった。
夜の闇でさえ、貴方の翼と同じ色なのだ。
問いに問いで返すと、彼は困ったように笑った。
「そうだね…羽根が生えてるから、かな」
「こわくないよ?おにいちゃん、うらやましい。だってわたしには、はねがないもん。わたしもおそらとびたい!」
「…じゃあもしもう一度会えたら、君を抱いて空を飛んであげるよ」
「ほんと?やくそくだよ?」
「うん。約束だ」
彼はそう言って、私の頬を撫でた。
私を真っ直ぐに見つめるその真っ黒な瞳に、思わず吸い込まれそうになる。
どくどくと心臓が煩い。
熱でもあるかのように。
私は彼の腕の中で、目を閉じた。
「…覚えておいてほしい。私の名は、夜」
「…よ…る?」
まどろみの中、私は問う。
彼の優しい声が、暖かい腕が、太陽の匂いが、とても心地好かった。
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