翼の人

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  『高橋振ったんだって?いい加減噂の好きな人教えてよ!』 それは友人の麻由美からだった。 私は夜との約束を守り、誰にも夜のことを話してはいない。 夜は翼のことを話さないでほしかったのだろうが、私は、夜のことは自分の胸の中だけに閉まっておきたかった。 私と夜だけの思い出。 私しか知らないあの人の姿、声、翼。 誰にも話す気にはなれなかった。 その時、頂上の方から鳥の羽音と、何かが地面に落ちる音がした。 私は慌てて顔を上げる。 携帯電話をポケットに仕舞い、鞄を抱えながら急いで山道を登る。 頂上の古びて崩れかかった社が開いている。 その奥の扉も開いており、その向こう側は深い霧に包まれていた。 私は怪訝な顔をする。 どうして霧が…? 「…う…ぅ…」 「!」 茂みの向こうから、誰かの呻き声が聞こえた。 ゆっくりと近付いていくと、その茂みから、茶色の大きな羽根が姿を現した。 私は鞄を握りしめながら、そっと茂みを掻き分ける。 そこには、背中から立派な羽根を生やした女性がうずくまっていた。 体中から血を流して。 「だ、大丈…!?」 「!!いやぁああ!!」 彼女は私を見た途端、顔色を変えて後ずさった。 血まみれで動けない体を、必死に地面に擦りつけながら。 地面が赤く染まっていく。 私は青ざめた。 助けないと…落ち着かせないと…! 「待って!私は何もしないわ、本当よ!」 「いやぁああ!!ニンゲン!!ニンゲン!!」 「お願い、信じて!」 私は鞄を置き、地面に額を擦りつける。 すると彼女は、悲鳴を上げなくなった。
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