15人が本棚に入れています
本棚に追加
ギターもピックもアンプも準備が整ったところで、由宇は気がついた。
「…楽譜がない」
「え?」
「楽譜がないッ!」
クリアファイルを鞄から掴み出して、中身を床にぶちまける。
学校の宿題や時間割表、プリクラや別の楽譜は出てきたが、
「ヤバい……『月明かり』の楽譜、なくしたか忘れちゃった」
『月明かり』は、空色カーニバルが現在メインで練習している曲で、やはりクラッシャーズの曲だ。
おっとりした雰囲気のバラードで、由宇のお気に入り。ドラマの挿入歌だったこともあり、世間一般的な知名度も人気も高い曲だ。
「ユゥちゃんなら、楽譜なくても歌えるでしょ?」
ツインテールの少女こと空色カーニバルのドラム、朝倉穂野香(あさくら・ほのか)が言う。
「あんだけ気に入って歌ってたんだから、大丈夫だろ」
穂野香に追随するように、ベースの金髪少年こと高槻煉(たかつき・れん)が白い歯を見せて笑う。
「本番じゃないんだし、次に忘れたりしなけりゃ大丈夫だ」
いかにも真面目そうなギターの眼鏡少年、谷口湊(たにぐち・みなと)もそう言った。
言ってから、
「まぁ、原譜はあるから、よっぽど無理なら見たらいいさ」
汚損しないよう厚紙の間に挟んであった楽譜を見せた。
「…ま、取り敢えずは大丈夫」
気を取り直し、由宇はピックを持つ。
穂野香が、スティックを打ち鳴らした。
最初のコメントを投稿しよう!