第一章、破壊神と呼ばれし彼女。

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ギターもピックもアンプも準備が整ったところで、由宇は気がついた。 「…楽譜がない」 「え?」 「楽譜がないッ!」 クリアファイルを鞄から掴み出して、中身を床にぶちまける。 学校の宿題や時間割表、プリクラや別の楽譜は出てきたが、 「ヤバい……『月明かり』の楽譜、なくしたか忘れちゃった」 『月明かり』は、空色カーニバルが現在メインで練習している曲で、やはりクラッシャーズの曲だ。 おっとりした雰囲気のバラードで、由宇のお気に入り。ドラマの挿入歌だったこともあり、世間一般的な知名度も人気も高い曲だ。 「ユゥちゃんなら、楽譜なくても歌えるでしょ?」 ツインテールの少女こと空色カーニバルのドラム、朝倉穂野香(あさくら・ほのか)が言う。 「あんだけ気に入って歌ってたんだから、大丈夫だろ」 穂野香に追随するように、ベースの金髪少年こと高槻煉(たかつき・れん)が白い歯を見せて笑う。 「本番じゃないんだし、次に忘れたりしなけりゃ大丈夫だ」 いかにも真面目そうなギターの眼鏡少年、谷口湊(たにぐち・みなと)もそう言った。 言ってから、 「まぁ、原譜はあるから、よっぽど無理なら見たらいいさ」 汚損しないよう厚紙の間に挟んであった楽譜を見せた。 「…ま、取り敢えずは大丈夫」 気を取り直し、由宇はピックを持つ。 穂野香が、スティックを打ち鳴らした。
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