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「よしっ」
歌詞か何かが書けたらしく、悟樹がシャーペンを放り出す。
「書けたのか?」
「見ます?」
思わず身を乗り出す龍次郎に、悟樹は書き上げたルーズリーフ数枚を手渡した。
龍次郎は嬉しそうにそれを受け取ったが、最初の二行で眉間に皺を寄せた。
「サト」
「はい?」
「日本語で書け。読めねぇ」
「ちゃんと日本語ですよ」
李音も覗き込み、苦笑する。
「これはちょっと、読むの苦しいかな。言語だろうけど、読めないよ」
「えー、読めますって。これなんか」
悟樹は一行目の右端の文字を示した。
一行目、三行目、五行目と奇数の行は判読不能の文字が不定期な間隔を空けて書いてある。
「Cm(シーマイナー)です」
「日本語じゃないよ」
「ちゃんと日本で通じる言葉ですよ?」
つまり悟樹は、歌詞の上にコードネームを書いていたらしい。
「まぁ歌詞ぐらい読めますよね」
「この曲線の寄り集まりを文字だって思ってるなら、サト、無茶だよ」
読むのを諦めた李音からルーズリーフを返され、悟樹はそれを大事そうにクリアファイルに挟んだ。
「ちゃんと楽譜に直しますから、それまでお楽しみにしててくださいよ」
「読める文字で書けよ」
「当然です」
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