邂逅

3/29
前へ
/86ページ
次へ
竹刀を取った柚音は、多津彦の正面に立った。 多津彦の前に立った彼女は、袴に身を包み、髪を頭の高い位置でひとつにまとめていた。 まとめられた髪の毛先が、うなじの辺りで揺れている。 竹刀を正眼に構えると、切っ先を多津彦へ向けた。 多津彦も柚音へ切っ先を向ける。二人の間の空気が変わる。 「始め!」 師範の短いが威厳のある声音で、試合の開始を告げる。 だが二人はまったく動かず、互いに攻める隙を伺っている。 ほんのわずかな動きも見逃さないよう、ひたすら相手を見据える。 しばしその状態が続いていたが、柚音が小刻みに切っ先を揺らして相手の切っ先を叩き、誘いをかける。 それに対して多津彦は、相手をすることなく、じっと柚音を注視するのみ。 ぱしりと竹同士のぶつかる乾いた音が道場内に響いては、静寂(しじま)に溶けて消えていく。 師範はその様子を静かに見つめる。 誘いをかけ続けながら、柚音が右足を半歩下げ、ほんの僅かに腰を落とした。 右足に力を入れ、機先を制すべく踏み込もうとした瞬間── ぱんっ 破裂音が場の空気を打ち破り、響き渡った。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加