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動く素振りを見せなかった多津彦が、不意に柚音の竹刀の切っ先を弾いたのだ。
と同時に一気に間合いを詰め、隙のできた柚音の小手へ竹刀を振り下ろす。
「──っ!?」
柚音は飛び退きながら、竹刀を間一文字に振り抜き、胴を狙う。
しかし僅かに届かず、空を切る。
すかさず一歩踏み込み、返す刀で多津彦の右脇から左肩へと振り上げる。
がきっ
多津彦は下から迫る攻撃を受け止め、交えた竹刀をすくい上げようとする。
──鍔迫り合いに持ち込まれるっ!
鍔迫り合いになれば剣の技量ではなく、単純な腕力の勝負になる。
そうなれば、柚音はどうしても力で押し負けてしまう。
多津彦の態勢が崩れる瞬間狙おうと、柚音は素早く竹刀引いた。
だがそれよりも早く、多津彦のほうが竹刀を引いた。
「つ、うっ!?」
同じ手を仕掛けられて驚いたのと同時に、左手首に痛みが走った。
「それまで!!」
師範の声が、試合の終わりを告げた。
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