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「うぅ……いてぇよぉ……」
力士がうめき声を上げた。
生きていたことに、柚音はほっとする。
芹沢はうめく力士に、冷たい視線を投げた。
「大人しく道を開ければ、痛い目に遭わずに済んだものを。……行くぞ。」
柚音は自分の耳を疑った。
「え……放っておくんですか!?」
芹沢は面倒そうに、柚音を振り返った。
「手加減はしてやっている。それに斎藤を休ませてやるのだろう?」
「そ、それはそうですけどっ……」
柚音の言葉を最後まで聞かず、芹沢は歩き出した。
沖田もそれに続く。島田と原田も、斎藤に声をかけて歩き始めた。
──えっ、みんなも行っちゃうの!?
柚音は力士の怪我が気になり、その場を動けなかった。
かといって、土地勘のない場所で皆とはぐれるわけにはいかない。
柚音はどうしたらよいかと、遠ざかって行く芹沢の背中と、力士たちを交互に見る。
その場に残っていた山南が、迷う柚音に声をかけた。
「範囲は大きいけれど、あの傷は浅い。命に別状はないから、心配しなくても大丈夫だよ。」
「でも……」
言葉を制するように、山南の手が柚音の肩に置かれた。
「私も問答無用で斬りつけたことは、いいことだとは思っていない。しかし、これ以上芹沢さんの機嫌を悪くさせると、もっと被害が増えかねない。」
肩に置かれた山南の手に、少し力がこもった。
「さぁ、行こう。速水君。」
山南の手が柚音の背中に移り、促すように背中を押した。
それに気づいた力士たちが、怒りに燃えた目で、二人を睨みつけた。
「てめぇら、覚えてやがれっ!このままで済むと思うなよ!!」
立ち去る二人の背中に怒りをぶつけた。
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