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遊廓に着き、通された部屋の襖を開けると、皆が思い思いに寛いでいた。
しかし、斎藤の姿が見当たらない。
柱に背中を預けて座っていた永倉が、柚音と山南に気がつき顔を向けた。
「おぅ、遅かったな。」
「斎藤さんは、どちらにいらっしゃるんですか?」
「隣の部屋で寝てるぜ。目が覚めたら、けろっとしてるだろうさ。」
柚音はそっと隣の部屋に続く襖を開けた。
斎藤は静かに寝息を立てて眠っていた。
眉間の皺は消え、顔色も先ほどより赤みが差している。
時折もそもそと寝返りを打つ。
「……大丈夫のようだね。」
柚音の後ろから部屋を覗いていた山南が、ほっと息をついた。
静かに襖を閉めると、柚音は寝転がって頬杖をついている沖田の隣に座った。
「斎藤さんが目を覚ますまで退屈ですねぇ……」
沖田はぽつりとつぶやき、子供のように両足をぱたぱたと上下させる。
「……そうだ!」
何か閃いたらしく、ぱっと顔をあげると、にこにこと柚音を見つめる。
「柚音さん、手合わせしましょう!」
「……はい?」
唐突に遊びに誘うような楽しげな声音で言われ、柚音は疑問形の返事を返した。
「ほら。この間は僕が土方さんに呼ばれた所為で、できなかったでしょう?だから、今やりましょう!」
──沖田さんの容赦ない猛攻を、受ける自信なんかないっ!
柚音の脳裏に、ぼろぼろになった河合の姿が浮かんだ。
どうやって断ろうかと考えていると、永倉が沖田の頭をぺしっとはたいた。
「ハジメが寝てるってのに、ばたばたすんじゃねぇ!」
──助かったっ!
永倉の助け船に、柚音は心底ほっとした。
「ちぇっ、いい考えだと思ったのに……」
沖田ははたかれた頭をさすりながら、窓のほうに歩み寄った。
拗ねた様子で目の前に広がる竹林を眺め始めた。
しばらくして、ふいに沖田の視線が下に移った。
何かに気づいたのか、口元に笑みが浮かぶ。
「面白いことになってきましたねぇ。僕たちにお客さんが来ましたよ。」
おもちゃを見つけた子供みたいに楽しそうな顔で、沖田が手招きをした。
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