壬生狼、駆ける

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柚音と沖田が、力士たちの前に到着した。 力士たちの殺気が二人に集中する。 初めてあからさまな殺気を向けられた柚音の背中には、ひやりとしたものが伝った。 「やる気満々ですねぇ。」 殺気を浴びているにも関わらず、沖田は野原でそよ風に吹かれているかのような、のん気な声を漏らした。 「左之。どっちが多くこいつらを伸すか、勝負しねぇか?」 「いいぜ。その勝負、乗った。」 原田と永倉は軽口を叩き合った。 しかしお互いを見ておらず、その目はぬかり無く力士たちを見据えている。 そこへ芹沢が姿を現した。 仲間を斬った張本人の登場に、力士たちの殺気がさらに鋭さを増したのがわかった。 芹沢は悠然と力士たち見渡すと、嘲笑を浮かべてせせら笑う。 「こちらはたったの七人。しかも女がいるというのに、貴様らは部屋総出の大所帯……よほどの腰抜けぞろいと見える。」 力士たちの顔が、怒りで真っ赤に染まる。 「やっちまえ!」 力士の中から声が上がった。 それと同時に、得物が柚音たち目がけて、一斉に襲いかかって来る。 左右に別れてそれを避けた。 ばんっ 角材が地面を叩く。 しかし力士はすぐに角材を左に薙ぎ払い、沖田を狙う。 沖田は反射的にしゃがんだ。 頭のわずか一寸(約3㎝)上を、角材が掠める。 掠めて行ったのを感覚だけで確認すると、鞘ごと刀を下げ帯から外した。 そして立ち上がる勢いを乗せながら、大きく踏み込み、疾風のような早さで突きを繰り出した。 どすっ 沖田の突きは寸分の狂いもなく、力士の鳩尾をとらえた。 「ぐ、ぇ……っ。」 力士はうめき声を漏らすと、膝からくずおれ、そのまま前のめりに倒れこんだ。 白目をむいて気絶している仲間を見て、力士たちがさらに怒り狂った。 そこに永倉が飛び込み、白刃の刀を、力士たちの胸に走らせた。 力士二人が同時に倒れ伏した。 「安心しな、峰打ちだ。その代わりあばら骨の二、三本は綺麗に折れてっけどなぁ。」
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