壬生狼、駆ける

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「永倉さん、後ろっ!」 柚音が厳しい声を上げた。 永倉の背後から、別の力士がつかみかかろうとしているのに気づいたからだ。 しかし島田が力士の腕をがしっとつかんだ。 力士は逃れようとするが、振りほどくことができない。 「うおりゃあっ!」 そのまま気合いの声と共に、足払いを掛けて力士を地面へと引き倒した。 「ありがとよ、二人共!」 「女、邪魔だっ!」 柚音の頭上で、八角棒が振りかぶられた。 それを飛び退って回避すると、柚音は店の前に立てかけてあった箒をつかむ。 ばしぃっ 得物を構え直す隙を突き、箒の柄を力士の向こう脛へと、真一文字に叩き込んだ。 「いってぇ……っ!」 弁慶の泣き所というだけあって、さしもの力士もその場に蹲る。 「舐めた真似しやがって!」 怒声が上がり、別の力士が真横から柚音目がけて角材を突き出した。 それを咄嗟に半歩下がり、半身を捻ってかわす。 角材の下を滑り込ませるようにして、箒の柄で力士の足の甲を突く。 「ほぅ。女にしてはやるようだな。だが詰めが甘いわ!!」 芹沢は脛攻撃を食らって蹲る力士の、無防備な背中に一太刀を浴びせた。 「ぎゃあっ!」 力士は短い悲鳴を上げて、ばたりと倒れこんだ。 「芹沢さん!無防備な相手を斬るなどっ……!」 手刀を食らわせて力士を気絶させた山南が、非難の声を上げた。 しかし芹沢の耳には届かず、手加減なしで力士を手打ちにしていく。 原田が力士の落とした八角棒を拾い上げた。 棒の真ん中を両手で持ち直すと、そこを軸にして大きく回転させ始める。 棒は重い風切り音を響かせ、力士たちの鼻すれすれを掠める。 「おらおらっ!怪我してぇ奴はどいつだ!俺がまとめて相手してやるぜ!」 棒はこめかみ、顎、額と急所を強打し、力士たちを薙ぎ倒していく。 すでに三分の二の力士が倒れ伏し、柚音たちの足元でうめき声を上げていた。 壬生浪士組の強さと、地面に転がる仲間を見て、残っている力士たちは後退りをし始めた。 「うわぁっ!」 一人がついに背を向け、逃げ出した。 「おっと、逃がしませんよ。」 しかし三丈(約10m)も行かずに、後ろから沖田の突きを食らい、もんどりを打って倒れた。 「よし、一丁上がりぃ!」 残りの力士たちも、永倉と原田の手によって完全に伸されていた。
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