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医者の手配も済み、斎藤も回復したため、柚音たちは京屋へと戻ることとなった。
宿に着くと、土方と新見が玄関に立っていた。
芹沢の腰巾着の新見がいるのはともかく、土方がいたことに、柚音たちは驚いた。
芹沢だけは、にやりと笑みを浮かべる。
「ほぅ、出迎えとは殊勝な心掛けではないか。その心掛け、忘れるでないぞ。」
そう土方に言うと、芹沢は新見を従え、悠然と奥にある自室へと姿を消した。
芹沢の後に続き、柚音たちも土方の前を通り過ぎようとした時──
「おまえら、俺に何か報告することがあるはずだよな?」
怒りを抑え込んだ、地を這うような低い声がした。声のしたほうを見てみると、土方がこめかみに青筋が浮かべている。
「全員、近藤さんの部屋に来てもらうぜ?」
疑問形だが、有無を言わさない声音に、全員土方の後をついて行くしかなかった。
部屋に入ると、困惑顔の近藤が座っていた。
「……何故呼ばれたかは、わかってんだろうな?」
近藤に代わって、土方が口を開いた。
「力士たちとの件、だね。」
山南が皆を代表して答えた。
「うむ。四半時ほど前に、遊廓から苦情が来てな。状況を説明してもらいたいのだ。」
近藤が両手を袂に入れ、難しい顔で説明を求めて来た。
「実は……」
山南が手短に、道での一件と乱闘騒ぎを報告する。
「ふむ、なるほどな。」
「ちっ、嫌な予感が当たりやがった!山南さん、あんたがいながら何でこうなったんだ!」
土方が山南を怒鳴り散らした。
「……申し訳ない。」
山南は弁解することなく、静かに頭を下げた。
土方は小さく舌打ちをする。
「……総司!」
「何ですか?」
不意に矛先が沖田に向けられた。
しかし沖田は土方の怒りなど慣れているのか、のほほんと返事を返す。
「苦情言いに来た遊廓の下男が言ってたんだけどよ。おまえ、乱闘の時に真っ先に下りて行ったらしいじゃねぇか?」
「芹沢さんの許可が出たんですよ?何も問題ないじゃないですか?」
「騒ぎの元凶の言うこと、素直に聞いてんじゃねぇよ!」
ばんっ
沖田の返答に、土方は眉間に深い皺を寄せ、八つ当たりするように畳を叩いた。
「トシ、済んだことを言っても仕方があるまい。」
近藤が土方をなだめる。
「何でそんなに落ち着いてられるんだよ?尻拭いさせられるのは俺たちだぞ!」
土方は怒りが収まらない様子で声を荒げる。
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