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「それは我々の力不足故のこと。これから精進すればよいだけのことだ。」
「……あんた、お人好しにもほどがあるぜ。」
近藤の言葉に毒気を抜かれた土方は、これ以上言うのを諦めて首を振った。
「でもよ、先にちょっかい出してきたのは奴らだ。俺たちは売られた喧嘩を買ったまでだぜ?」
一方的に怒られるのが少々不満そうに、原田が耳の穴をかっぽじりながら言った。
「それはわかっている。」
気を取り直した土方が、原田に向き直った。
「この件は俺たちを会津公お預かりと知っての狼藉、ということで奉行所に届け出るつもりだ。」
「彼らのほうが被害が大きいのに、さらに駄目押しをするようなことは……」
山南が力士たちを擁護する。
「何言ってんだ、山南さん。ただでさえ奴らは舐めてきてるんだぞ。ここで下手に出れば、さらに舐められだけだ。」
「それはそうだが……」
山南はそのまま黙り込んでしまった。
部屋に沈黙が漂う中、近藤がふいに、何かを思い出した様子でぽんと膝を叩いた。
「そうだ、速水君。怪我はなかったかい?」
柚音に視線を向け、気遣わし気に声をかけた。
「は、はいっ。大丈夫です。怪我はありません。」
ふいに話を振られ、柚音は驚きながらうわずった声で答える。
「そうか、よかった。おなごが怪我をしては大変だからな。」
それを聞いた近藤は、目を細めて安堵の息を漏らした。
「大丈夫ですよ、近藤さん。箒で力士の脛や足の甲をひっぱたいて、立派に応戦してましたから。」
沖田が乱闘時の彼女の様子を簡単に話した。
それを聞いた近藤は、さらに目を細めた。
「ほぅ、それは勇ましいな。だがあまり無茶をしてはいかんぞ。」
まるで自分の子の活躍を聞いて喜ぶ親のようだ。
逆に土方は眉を吊り上げ、柚音を睨みつけた。
「女が乱闘なんかに参加してんじゃねぇよ。何故真っ先にここに戻って、事態を報告しなかった?そうしていれば、もっと別の手を打てたはずだ。」
「す、すみません……」
不機嫌で刺々しい土方の言葉に、柚音は身を竦ませた。
「勘弁してやってくれよ、土方さん。芹沢さんの挑発で、あいつらがすぐに仕掛けて来て、抜け出す間がなかったんだ。」
永倉が柚音を庇って口を開いた。
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