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「照れなくてもいいのによぉ。」
斎藤の背中を見送りながら、永倉が笑う。
「でもおめぇが言ってたの、効果あったんだなぁ。今度試してみっかぁ。」
永倉は右手の親指と人差し指で輪を作り、それを口元へ傾ける仕草をする。
それを見た柚音が、言いにくそうにしながら言った。
「あれは船酔いの気持ち悪さから気を逸らすためなので、二日酔いには効かないかと……」
「何でだよ?船酔いも二日酔いも、気持ち悪りぃのは同じだろ?」
永倉は不思議そうな顔をして、柚音に聞き返した。
「何でと言われても……一番の対策は、ほどほどに飲むことですよっ。」
切り返されると思っていなかった柚音は、苦し紛れに言い返した。
「何言ってんだ。男の付き合いは酒に始まり、酒に終わるんだぞ。酒を飲んでなんぼ、酒に飲まれてなんぼだ。何より酒が入りゃ、腹割って話せるようにもなるしなぁ。」
永倉は真剣な顔で酒の席上の付き合いの大切さを説く。
しかし飲めない柚音には、酒を飲むための屁理屈にしか聞こえなかった。
じっと疑いの眼差しを注ぐ。
「……酒の旨さのわからねぇガキにゃ、早ぇ話だったな。」
永倉は幼い子をなだめるように、柚音の頭をぽんぽんと叩いた。
「子供扱いしないでください。私はお酒が飲めないだけですっ。」
叩かれた部分に触れながら、柚音は拗ねた声で口を尖らせた。
「拗ねんなよ。今度何か奢ってやっから、機嫌直せって。」
「じゃあ、蕨餅がいいです。あっ、島田さんも誘っていいですか?」
島田と聞いて、永倉の眉が情けなく下がった。
「魁さんは、勘弁してくれ。あの人は甘ぇもんのことになると、見境がなくなっちまう。俺の給金が持たねえ……」
山のように出てきた蕨餅を、嬉しそうに頬張る島田。
その横ですっからかんになった財布を逆さに振って溜息をつく永倉、という光景が頭に浮かんだ。
「あはっ。それもそうですねっ。」
それがおかしくて、蕾が綻ぶように、ほわっと柚音が笑った。
「お、やっと笑ったな。」
満足そうに永倉が笑った。
「戻って来てから浮かねえ顔してたから、気になってたんだよ。」
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