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柚音の顔が再びしゅんと暗くなった。
口に出していいものか俊巡していると、永倉が苦笑した。
「……まぁ、土方さんの判断は大人の事情ってやつだ。山南さんもそれはわかってるはずだ。おめえも今は納得いかねえだろうが、いずれはわかるさ。」
永倉は柚音の肩に手を置き、諭すような眼差しを向ける。
──まだ納得できないけど、永倉さんの言うとおり、私にはわからない事情もあるのかも。
今は考えても仕方ないか……
「……はい、わかりました。」
柚音は俯いていた顔を上げ、永倉の目を見て返事をした。
永倉はそれを見て、にっと口角を上げた。
そして少し暗くなってしまった雰囲気を打ち破るように、ぱんっと手を打ち鳴らした。
「よし、この話はこれで終わりだ!夕飯までまだ間があるし、ゆっくり休んでな。」
そう言うと、永倉は行ってしまった。
柚音も自分の部屋に戻ろうと歩き出す。
玄関の近くを通った時、巡察から帰ってきた藤堂が、隊士たちに解散の指示を出しているところに遭遇した。
「お帰りなさい、藤堂さん。」
隊士たちが散っていくのを見計らい、柚音は声をかけた。
「ただいま、速水さん。あんたたちのほうが早かったんだね。芹沢さんのことだから、絶対に遅くなると思ってたんだけど。」
藤堂は汗を拭いながら、草履を脱いで玄関を上がる。
「町の様子はどうでしたか?」
「今のところ、特に怪しい奴はいなかったよ。まぁ、町の人たちは俺たちを見て、ひそひそと陰口叩いてたけどさ。芹沢さんがいたら、また騒ぎになるとこだったよ。」
襟元をつかんで、ばさばさと懐に風を送りながら、藤堂が答える
「いえ、『なるとこ』じゃなくて『なっちゃった』んですよ。」
「えっ、なっちゃったって?」
柚音のつぶやきに、藤堂は思わず手を止めた。
柚音は苦笑した後、かいつまんで事の次第を説明する。
「うわぁ、派手にやってくれたね。しかも力士相手になんてさ。あ~、俺も参加したかったなぁ。」
両手を頭の後ろで組みながら、藤堂は残念そうに言った。
「でも、土方さんはその所為で不機嫌ですよ。」
「げっ。これから巡察の報告に行くっていうのに、やだなぁ……」
柚音の突っ込みで、藤堂は溜息と共に、がくっと肩を落とす。
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