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「おいっ!!無視してんじゃねえっ!?」
不機嫌な原田の声がすぐそばで聞こえた。
振り返ってみると、中に入ってこようとする原田によって障子が三寸(約9cm)ほど開けられているのが目に入った。
――いやぁぁ!入ってこないでぇっ!
柚音は障子にかけられている原田の手を挟んでしまうこともお構いなしに、慌てて引き手を押さえ込んだ。
「うおっ!?」
原田は柚音の予想以上の素早さと必死の表情に怯み、思わず一、二歩後ずさった。
その隙に障子を閉めて、さらに心張棒(つっかい棒)を引っ張り出して侵入を完全阻止した。
「って、おいっ!開けろっ!」
我に返った原田が障子を力まかせに叩く。
強い風に吹かれているようにがたがたと障子が音を立て、その振動が引き手を手に伝わってくる。
しばらく押さえていたがその音が徐々に大きくなってくる。
このままでは壊されかねない。柚音は障子を押さえ込む手に、さらに力を入れると声を張り上げた。
「手拭いは誰か他の人に借りてくださいっっ!!」
「はぁ!?お前以外いないから、頼んでんだろーが!!さっさと出て来いっての!」
柚音の頼みはあっさりと却下された。答えた原田の声には苛立ちが混じっていて、声の大きさもその苛立ちをぶつける様に大きくなった。逆効果になっただけだった。
「だからって、なんで私なんですかぁっ!!」
柚音もそれに負けまいと声を張った。
しかし声音は今にも泣き出しそうな少し情けないものになっているのが自分でもわかった。
――原田さんの裸を見るのが恥ずかしいなんて言えないよぉっ!お願いだから早く察してよぉ!
心の内で叫ぶが、当然原田には届くはずもない。
どちらも主張を譲ることはなく、障子一枚隔てての攻防と手拭いを貸せ誰かに借りろの押し問答が続く。
時間が経つにつれて、言い合う声だけが大きくなっていく。
「えらい騒がしおすけど、どないしましたんや?」
二人の騒ぎ声を聞きつけた源之丞がやってきた。
「源之丞さん、ちょうどいい所に来てくれたぜ!」
天の助けとばかりに、原田が源之丞のほうへ顔を向けて説明をし始めた。
「俺が水浴びしてたところに通りかかった速水に手拭い貸してくれって頼んだら、速水の奴が無視していきなり部屋に籠りやがってよ!出て来いっつっても『手拭いは他の奴に借りろ』の一点張りで、出てきやしねぇんだよ!!」
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