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「……多津兄ぃは昔からそうだよね。私をちゃんと見てくれない。」
柚音は少し目を伏せ、諦めたような声音でつぶやいた。
「俺がおまえのことをちゃんと見ていない?そんなわけないだろう。現にこうして今も……」
柚音は静かに首を振った。
「……じゃあ、さっきの試合で二度目の小手を打ち込んだ時、本当は胴を狙えたはずだよ。それなのに小手にしたのは、なんで?」
真意をはかろうとするように多津彦の目を見つめる。
──気付かれていたのか。
多津彦は僅かに目を見開いた。
「私は確かに女だよ。多津兄ぃより力は弱いし、体力もない。だからこそ、少しでも追いつけるように、稽古は欠かさずやってるの。」
柚音は両手の手のひらを、多津彦に見えるように、上に向ける。
多津彦の手に収まってしまいそうなほど小さな手だった。
その手には所々まめが潰れた跡があり、指の付け根には剣だこができていた。
この年頃の女の子にはまずないものだ。
「……女の子としてみられるより、多津兄ぃと同じ、一人の剣士として見てほしいの。手加減されても、嬉しくないよ。」
そうつぶやくと、柚音は多津彦を残して立ち去った。
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