――7/26(土)22:33、亮太、響子と電話中――

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しばらく沈黙が続いた。いや、時間にするとほんの数秒かもしれない。でも、どうしようもなく焦っていて、どうすれば正解になるのか全くわからなかった俺にとっては、とてつもなく長い時間に感じられたんだ。 携帯の奥からかすれたような響子の声が聞こえてきた。 「……鍵、開けたから」 「え?」 「入ってきて、いいよ」 「あ、ああ」 そう言われて、前に一度だけ来たことがある坂本家の塀の中へ入った。 石畳を一歩二歩と進んでいく。頭の中は何を話そうか、どう話そうかでいっぱいで、玄関の扉の前に立ったときにいきなり扉が目の前に現れたと思ったくらいに緊張していた。 扉に手をかけようとすると、扉が勝手に開き始める。ゆっくりと開けられていく扉の先には誰の姿も見えず、一瞬幽霊かなんかなのかと思ってしまう。 でも、そこから聞こえてきたのはやっぱり響子の声だった。 「入って……みんなもう寝てるから静かにね」 ひそひそ声をなんとか聞き取るとうなずいて中へ入る。おじゃまします、と心の中で言った。 広いリビングの左手にはダイニングキッチンに食卓テーブル、右手というより真ん中から大型ソファがテレビを囲むように横に並んでいた。 それらをじっくり眺めることもなく奥にある階段を響子の手に引っ張られて上っていく。 二階の響子の部屋につくまでの間、響子のいつでも温かい手がぎゅっと強く俺の手をつかんでいた。 俺はずっと何も言うことができなかった。
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