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第一部~第一章~
1
「はぁ、はぁ……」
ちっ、こんな事になるならサブマシンガンくらい支給しろってのよ。
今では使われることもなくなった雑居ビルの十二階。所々崩壊しており、外観からして廃墟と呼ぶに相応しいこのビルで、私は敵と交戦していた。建物内部は見る影もないほどに銃撃戦の傷跡を曝け出し、ここまでの戦闘の激しさを静かに物語っていた。
ちらりと手元にあるグロック18を一瞥する。悪い銃ではない。強化プラスチックを用いた軽量のハンドガンだ。他のオートマチックの銃と比べ装弾数も多い。この軽い銃で精度の低いフルオート連射機能が有能かどうかには疑問が残るが、銃自体の信頼度が低いかというとそうでもない。
しかし、この局面では絶対的に不利だった。
相手は三人、しかもアサルトライフル――恐らくAK‐47から派生したものだろう――を装備している。障害物の多い建物内でこの差は大きい。
銃の種類と戦闘空間においては相性というものが非常に大切になってくる。限られた空間でのこの装備の差は歴然である。どんなに鍛えられた腕と、頭脳を有していても物量戦になればひとたまりもない。
できれば個別に撃破していきたいところだが、敵はどうやらこの先の部屋に固まっているようだ。
素人どもめ、グレネードがあれば一思いにぶっ放しているところなのに。
もはや機能していないエレベーターに悪態をつきながら、階段を上りきったところで長い通路の奥にある部屋を見据える。目にする分にはただの通路、ただの扉だ。しかし、それが地獄への入口なのかも知れない。しかも、それを自分の手でこじ開けねばならないのだ。心労というには重すぎる所業だ。
今までも幾度となく修羅場はくぐってきた。これくらいのことで私が死ぬことなどない。その自負はある。それでも、いつ如何なるとき訪れるかもわからない死への恐怖は消えることはない。
微かに震える手を、グロック18のグリップを握りこむことで制止する。愛銃の弾を切らしてしまい、今手元で使える銃はこれしかない。こいつだけが頼りだった。この瞬間にもいつ背後から銃を突き付けられていてもおかしくない状況だ。
……いくしかない。
一息入れた後、一瞬、そう……ほんの一瞬だけ無の境地に入る。こうすることで邪念がなくなる。生きるために、ただそれだけを考え、生存本能そのままに戦える。
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