壱 鬼塚ギンコ

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とまあ、こんな具合で、私は自分で言うのもなんだけど、なかなかの苦労人というわけです。 そして今、この状況。 私は全速力で走っています。朝っぱらから、まるで陸上部のエースのように魂を込めて。 朝のランニングだなんて爽やかなものではありません。体中、もう汗まみれ。喘息でも起こしてるんじゃないかというくらいに、息は激しく切れています。 もちろん、ただ闇雲に走っているわけではありません。 私は前方を走る一人の男を追い掛けているのでした。何故ならば、あの男、私の鞄をひったくったのです。 あの鞄の中には私が女子高生であることの証が全て詰まっています。化粧品、携帯電話、財布、アイロン、コテ、ボディーバター、香水入りのアトマイザー、お弁当、きのこの里、クラスメートから借りている漫画の本、ニンテンドーDS。他にも色々。 教科書類は全部教室に置いてあるからあれだけの物が入るんだろうな、等と走りながらも考える余裕があったのは、肉体的な辛さよりも、ひったくり犯に対する怒りが勝っていたからでしょう。
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