第1章

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○●○ 煙匠・大丸屋。 東京都西部、東町市郊外に門を構える花火工場だ。 創業は江戸初期。初代・大丸火炎 (ひえん) が開いた老舗であり、花火業界で知らない者はいない重鎮である。 心炎の祖父である煙火 (えんか)が捌代目、父である焔が玖代目、心炎はちょうど拾代目。 煙火はすでに他界しており、当代当主は焔だが、心炎の後継は既に決まっている。 今は10人という小数ながら、全国で名を馳せる職人を幾人も育て上げている焔の腕は、確固たるものだ。まさに名人芸といって間違いない。 その中で、23歳という心炎は年少組の中の1人であり、まだまだ腕を磨いている途中。修業の身だ。 「おう、じーちゃん。元気してるかよ」 機械の試験を1時間程度で終えた心炎は、作業服を着込んだ格好のまま和室にいた。 正座で見つめるのは仏壇。そこには捌代目、煙火の写真がある。 優しかった祖父は、心炎が拾代目を襲名すると決意した次の日、安心したような笑顔で息を引き取った。老衰による安らかな最期を見つけたのは、起こしにいった心炎だった。
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