第1章

4/18
前へ
/63ページ
次へ
「――……ちっ」 最期を看取ったというだけではなく、『大丸屋』という名前までをも心炎に遺して。 煙火は安心して旅立っていった。 「とんでもねぇ重荷、背負わせやがって」 皮肉るように言ってやると、仏壇の祖父が笑ったように見えた。 『相変わらず生意気ですねぇ』 そんな声が聞こえた気がして、心炎は笑いながら立ち上がった。 「うるせェよ」 廊下に出ると、洗面所へ寄って作業服の上着を洗濯機へ叩き込む。 Tシャツ一枚になった心炎は、そのまま玄関から外に出た。 季節は夏。 今年は、激暑といって間違いないほどの灼熱が降り注いでいて、今日もまた、太陽は元気だ。 風はあるが、吹き付けるのは熱風。涼しさなどかけらもない。 「――……汗くさくなっちまうじゃねーか」 やる瀬ない気持ちで歩き出すと、門の所で母親の臥煙 (がえん) と出くわした。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加