17人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら、心炎。今日も?」
「おぅ。お袋は?」
「アタシはこれからお役所よ。隅田川でやらかしたでしょ? その後始末」
「――……親父は」
「さぁ? 休みくらい寝かせろ、じゃないの?」
「おいおい、親父に行かせろよ……。建設途中の東京スカイツリーに花火仕掛けて打ち上げるなんざ……普通に犯罪だぜ」
「まぁまぁ。警察サンにもお役所サンにも、アタシなら顔が利くしね」
「――……息子にそんな黒いこと言って良いのかよ」
「アタシは自分でやって来たことを隠すつもりはないわ」
「チッ、極道生まれめ」
心底嫌そうに言う心炎に、臥煙は豪快に笑いながらすれ違った。
「あっはっは! 華ちゃんによろしく!」
「華を極道に引き入れる気はねぇよ」
背後からまた豪快な笑い声が聞こえるのを無視して、心炎は目的地に向かって歩き始めた。
「……」
道すがら、母親のことを考える。
母親には、左手の小指が半分ない。
『あの人と一緒になるためよ。指くらいいくらでもくれてやるわ』
臥煙は極道の生まれだ。それも組長の第一継承権を持つ、次期組長だったのである。
「ギャグマンガかっつーの……」
もちろん、臥煙の言っていることが嘘である可能性は否めないし、荒唐無稽な話を信じるよりは、嘘だと思っておいた方が気は楽である。
最初のコメントを投稿しよう!