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広瀬君は…まだ来ていないみたい。
何だか無駄に挙動不信になる。
すごく楽しみ。
でも緊張する。
その繰り返しで、気付くと待遠しかった約束の時間になっていた。
「あれ?私、場所間違えたかな…。でも西口ってここしかないし…、寝坊してるのかも、広瀬君。」
顔がニヤける。
誰かに見られたかな。
一人でニヤニヤしてたら変だよね。
広瀬君、どんな服着て来るのかな?
早く見たい。
―――電車が線路を走る音。
走って駅の中へ滑り込む人。
駅のど真ん中にある壁時計は、さっき見た位置から8分位進んでいた。
「忘れてるのかな…。よし、メールしてみよう。」
"おはよう。もう駅に居るよ。西口の掲示板の横で待ってるね!"
―――ホームから外へ漏れるアナウンス。
電車から雪崩出る雑踏。
今日、何回時計を見たっけ。
「…ご飯食べる時間だ。」
約束から3時間。
足が痛くなって少し、しゃがんで待つ事にする。
メールの返事はまだ。
傘を差す人が増えて来た。
「天気予報じゃ、晴れだったのに。…ウソツキ。」
――――ウソツキ。
冷たい雨が髪の毛の先まで伝って地面に落ちる。
駅の屋根がある、入口すれすれの場所で雨宿りしてる人達。でも広瀬君はいない。
私は駅の中に入らなかった。広瀬君にメールで伝えたから。"掲示板の横で待ってるね"
って。
送ったメールを何度も読み返す。
電話をしようか迷った。
メールで返事がないから電話なんて…ウザいとかって嫌われるかな…。
広瀬君は絶対に来てくれる。
約束。
絶対に
絶対に…
唇が震えて、眉間が少し寄る。涙ぐんで、ケータイを持っていない片手で目を隠した。
雨はさっきよりも激しく降って来て、通り掛かる人達が私を横目で見ていく。
惨め。
自分でもそんな気がした。
なのに、うつむいて、しゃがんだまま、ひたすら広瀬君ばかりを思っていた。
―――遠くから水溜まりを蹴る音がする。
だんだんと近付いて来て、私の近くでその音は止まった。
それと同時に、私の頭上だけ雨が止んだ。
「っ広瀬く…」
ハッと見上げた先には…
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