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カーテンの隙間から白い陽射しが差し込んでいる。
窓の外からは小鳥の囀りと隣のおじいさんのラジオ体操の音楽が聴こえてくる。
「……うう」
明日の約束に、緊張し過ぎて楽しみ過ぎてまったく眠れず、昨日はついに一睡もままならないまま当日を迎えてしまった。
「………うー。ねむい、けど」
冷たい水で顔を洗って強引に目を覚ます。
「よしっ。今日はちょっと気合い入れてみますか」
部屋の姿見の前に立ってスカートの裾をつまんでみる。
「やっぱ気合い入れすぎたかな?」
普段あんまりスカートを履かない私の姿は違和感丸出しだった。
「んー……」
広瀬くんはどっちのほうがいいんだろ。
というか、今なんじ―――
「ヤバい」
家から待ち合わせ場所の駅前まで歩いて三十分。
時計を見ると約束の時間まであと二十分だった。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい」
慌ててカバンをひっつかんで、走って階段を駆け下りた。
玄関で靴を履きながら居間にいるお母さんに向かって声をかける。
「お母さん!?夕方までには帰ってくるから!行ってきます!!」
返事を待たずそう言い残して家を飛び出した。
後ろから、にやけたふうに
「デート?」
なんて声が聞こえた気がしたけど、構っている時間なんてない。
息を切らしながら走っている途中、
「あ。おーいバカタギリー」
なんて声は、聞いてないにきまってる。
私は何も聞こえてない。聞こえてないから、聞いてない。
「おい無視すんなよ、かたぎりー」
まったく聞こえてない、私は。
横について走ってきてなんかない。
私は何も見えてない!
「片桐のくせにオシャレしてなんかキモーい」
くそー、カス本のくせして~~!
あんたに構ってる暇ないのに!
「あ、彩愛先生!」
私はあさっての方向に指を指す。
「え?!うっそ、まじ!」
しめた、今のうち!
どうにか須本を振り切ってようやく待ち合わせ場所に到着した。
「ハア―――ハア―――」
なんとかギリギリ時間には間に合ったけど、広瀬くんは――――
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