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「帰ります」
顔を出しそうになる感情に蓋をしたくて、ようやく笑いの治まった先生の横を通り過ぎて美術室の扉に向かった。
やっとこの場から逃れられる。
ここを出て、家に帰って寝て、明日になればまたいつも通りになる。
そう安堵したのも束の間。
「……っ」
「だめ。俺の話、聞いてた?」
掴まれた。
違う。
捕まった、と言う方がきっと正しい。
耳元で聞こえる先生の声に、背中から伝わる先生の体温に治まりかけた鼓動が再び大きくなり、脳が抱き締められているんだと理解した時。
「ねぇ、聞いてたよね?」
優しく響く声が再度鼓膜を震わせた。
これ以上ないくらいに心臓が暴れて、息が上手くできない。苦しい。
堪えきれない何かが込み上げて視界を滲ませる。
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