8人が本棚に入れています
本棚に追加
―放課後―
触らぬ神に…なんて言ってたけど、なんだかんだ竜羽は気をつかってくれたのか、その日一日穏便に過ごせた。
「た~く」
帰る支度をした竜羽に呼ばれ、俺も鞄を持って立ち上がる。
「すっきりしていく?」
両手を合わせて振る真似をする。
バッティングセンターだ。
「いいね☆」
にぃっと笑いながら賛同した。
もう気にしてはいなかったけど、楽しいから行きたくなったんだ。
俺が理不尽な扱いされるのなんて、不本意ながら日常茶飯事だし…。
「お~い、片瀬」
教室の入口で生徒指導の山口が竜羽を呼んでいた。
眼鏡の奥で鋭い目が光っている、いかにもな教師だ。
「………ヤダ」
「ヤダじゃない!」
有無を言わせないオーラ相手に「ヤダ」って…。
相変わらず緊張感がない奴。
「ハァ…めんどくさい…」
やれやれと、観念したように立ち上がる。
何度も呼ばれている竜羽は「指導」される内容を嫌という程分かっている。
そして逃れられないということも…。
「長引くから先帰ってて」
「ん……ご愁傷様……」
竜羽の栗色の髪、何度自毛だと言ってもしつこく指導対象にされる。
それから…保護者。
竜羽には両親がいない。
親戚もいない。
育ててくれた爺さんは2年前に亡くなって、それ以来施設にも入らず一人暮らししている。
ソレが最大の「指導」対象となっているのだ。
「そんなの放っといてくれたらいいのにね」と本人は軽く言うが、世間的に重大なことだ。
ま、どんな話してるかは知らないけど、竜羽が心底嫌がっているところを見ると…立場上の見せ掛け「指導」ってやつだな。
やべ…また苛ついてきた…。
.
最初のコメントを投稿しよう!