―夕暮れの夜明け―

6/29
前へ
/97ページ
次へ
―放課後― 触らぬ神に…なんて言ってたけど、なんだかんだ竜羽は気をつかってくれたのか、その日一日穏便に過ごせた。 「た~く」 帰る支度をした竜羽に呼ばれ、俺も鞄を持って立ち上がる。 「すっきりしていく?」 両手を合わせて振る真似をする。 バッティングセンターだ。 「いいね☆」 にぃっと笑いながら賛同した。 もう気にしてはいなかったけど、楽しいから行きたくなったんだ。 俺が理不尽な扱いされるのなんて、不本意ながら日常茶飯事だし…。 「お~い、片瀬」 教室の入口で生徒指導の山口が竜羽を呼んでいた。 眼鏡の奥で鋭い目が光っている、いかにもな教師だ。 「………ヤダ」 「ヤダじゃない!」 有無を言わせないオーラ相手に「ヤダ」って…。 相変わらず緊張感がない奴。 「ハァ…めんどくさい…」 やれやれと、観念したように立ち上がる。 何度も呼ばれている竜羽は「指導」される内容を嫌という程分かっている。 そして逃れられないということも…。 「長引くから先帰ってて」 「ん……ご愁傷様……」 竜羽の栗色の髪、何度自毛だと言ってもしつこく指導対象にされる。 それから…保護者。 竜羽には両親がいない。 親戚もいない。 育ててくれた爺さんは2年前に亡くなって、それ以来施設にも入らず一人暮らししている。 ソレが最大の「指導」対象となっているのだ。 「そんなの放っといてくれたらいいのにね」と本人は軽く言うが、世間的に重大なことだ。 ま、どんな話してるかは知らないけど、竜羽が心底嫌がっているところを見ると…立場上の見せ掛け「指導」ってやつだな。 やべ…また苛ついてきた…。 .
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加