8人が本棚に入れています
本棚に追加
「…真兄?これは…?」
夕飯を前に、拓は恐る恐る真兄に尋ねた。
「シチューだ。見て分からないか?」
「…わかりますが……カレーは…?」
そう、今日はカレーだったはず。
それがシチューに代わっている。
まぁ、ルーが違うだけで具材は同じだし、私はシチューも好きだからいいけど。
「誰がカレーなんて言った?」
「さっき『よくわかったな』って!」
「あぁ、お前の話はほとんど聞いてないからな」
「ひどいっっ!」
おそらく拓の『一心同体』発言が気持ち悪くて、急遽メニューを変更したんだろうな。
それに真兄はよくこうやって拓をからかって楽しんでいるし。
「あ、そういや親父は?今日遅いの?」
「らしいな。先に食べてていいって連絡があった」
親父は刑事だ。
…普通の娘だったら『お父さん』とか呼ぶんだろうけど、母を早くに亡くし男所帯で育った私は『親父』と呼んでいる。
真兄も拓もそう呼ぶから自然と私も呼ぶようになった。
最近まで一人称も『オレ』だったし…。
…で、刑事の親父は事件の度帰りが遅い。
それで疲れて帰ってきた親父の為に、すぐ食べれるカレー(もといシチュー)を真兄は作っておくのだ。
毎回カレーなわけじゃなくて、いわゆる一皿料理だ。
「後でイタズラメールでもしとくかな」
悪ガキみたいに拓が言うが、真兄も私も止めはしない。
親父も怒らない。
それが家族のコミュニケーションだと、誰もが感じているからだ。
親父、『矢沢 狂』(きょう)は実の父親ながらまだ36歳だったりする。
どれだけ強い遺伝子だってくらい拓と私は親父似で、身長も見上げるほど高い。
そんな親父は『黒』。
何色にも染まらない、自分の芯を持っていて貫く。
でも支配的なものじゃない、夜空のように優しく包み込むような『黒』。
そんな親父をからかったりもするけど、真兄も拓も私も好きなのだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!