―灰色の空―

7/13
前へ
/97ページ
次へ
「…真兄?これは…?」 夕飯を前に、拓は恐る恐る真兄に尋ねた。 「シチューだ。見て分からないか?」 「…わかりますが……カレーは…?」 そう、今日はカレーだったはず。 それがシチューに代わっている。 まぁ、ルーが違うだけで具材は同じだし、私はシチューも好きだからいいけど。 「誰がカレーなんて言った?」 「さっき『よくわかったな』って!」 「あぁ、お前の話はほとんど聞いてないからな」 「ひどいっっ!」 おそらく拓の『一心同体』発言が気持ち悪くて、急遽メニューを変更したんだろうな。 それに真兄はよくこうやって拓をからかって楽しんでいるし。 「あ、そういや親父は?今日遅いの?」 「らしいな。先に食べてていいって連絡があった」 親父は刑事だ。 …普通の娘だったら『お父さん』とか呼ぶんだろうけど、母を早くに亡くし男所帯で育った私は『親父』と呼んでいる。 真兄も拓もそう呼ぶから自然と私も呼ぶようになった。 最近まで一人称も『オレ』だったし…。 …で、刑事の親父は事件の度帰りが遅い。 それで疲れて帰ってきた親父の為に、すぐ食べれるカレー(もといシチュー)を真兄は作っておくのだ。 毎回カレーなわけじゃなくて、いわゆる一皿料理だ。 「後でイタズラメールでもしとくかな」 悪ガキみたいに拓が言うが、真兄も私も止めはしない。 親父も怒らない。 それが家族のコミュニケーションだと、誰もが感じているからだ。 親父、『矢沢 狂』(きょう)は実の父親ながらまだ36歳だったりする。 どれだけ強い遺伝子だってくらい拓と私は親父似で、身長も見上げるほど高い。 そんな親父は『黒』。 何色にも染まらない、自分の芯を持っていて貫く。 でも支配的なものじゃない、夜空のように優しく包み込むような『黒』。 そんな親父をからかったりもするけど、真兄も拓も私も好きなのだ。 .
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加