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我が矢沢家には母がいない。
さっきも言ったけど、私がまだ小さい時に亡くなった。
幼心に残ってる記憶の母は、太陽の光のようにあたたかく、向日葵のようにまっすぐな、明るい『黄色』
…拓に言わせれば『口が悪くておもしろい』らしいけど、その辺は覚えていない。
そんなわけで、家事の分担は自然と分けられた。
料理は主に真兄。
洗濯や掃除は意外にも拓。
…私は…後片付け。
上に兄弟が二人もいると末っ子なんてそんなもんだ。
真兄が高校を卒業してからは、家事のほとんどを一人でやってくれている。
小説家としてデビューしてからは家にいるからだ。
締め切り前や忙しい時は拓が引き受けている。
…私はどういうわけか、センスがないのか料理ができない。
簡単なものはできるけど、基本的に…マズイ…。
だから他の事はなるべくするようにしている。
今だって夕飯の片付け、洗い物をしている最中だ。
「要」
不意に呼ばれ顔をあげると…
パシャッ
「よし、親父に送ってやろ。『要、マヌケ面』と…」
「………」
…拓に言われたくない。
「拓」
「え?」
パシャッ
「『拓、馬鹿面』と…」
「………」
真兄に同じ事されている。
やはり真兄の方が上手だ。
私達三兄弟は仲が良い。
いつもこうしてじゃれたり話したり、ほとんど一緒にいる。
私が自然体でいられる、安らげる存在と時間だ。
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