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ここは鬱蒼と茂る暗黒の木々に囲まれた赤黒い不気味な空の下。
そんな淋しい場所には、今にも潰れてしまいそうなみすぼらしい小屋があり、その前でおかっぱ頭で浴衣に身を包んだ少女が佇んでいる。
「皆様、この度ははるばるこんな処までよくいらっしゃいました」
彼女はその小さくて綺麗な顔にはカケラも表情を浮かべず、傍目にも分かる程虚ろな顔のままでそう言った。
「お集まり頂いた皆様にはこれより、この先にあります門をくぐって【あちらの世界】へ向かって頂きます」
彼女はまた、その深い緑色の瞳に映る何もない静かな空間に向けてそう話しかける。
「死して霊魂となられた皆様は、これから私に着いて冥界の扉を開け、現世との縁を断ち切らなくてはなりません」
それだけ言うと、彼女はその華奢な身体を反転させ、後ろにあった木造の小屋に入って行った。
すると、まるでその後ろに続くかのように、何処からともなく無数の青白い人魂が現れて、そして小屋の中へと消えていった。
「それから、霊塊だけとなった皆様が退屈しないように、道中はこれまでに私が見てきた、いわゆる悪霊の数々をご覧にいれます」
小屋の中に入り、その床に空いていた怪しげな穴を下りると、周りの風景とは似ても似つかない、異様な冷気を放つ地下道に繋がっていた。
その道を、淡々と歩調を緩めることもなく進みながら、浴衣姿の少女はそう話す。
「それではまず、門に着くまでに一つ、このような話はいかがでしょう?」
少女はそこで初めて、無表情だった顔にぞっとするような微笑みを浮かべた。
そして、その口からゆっくりと、ある一つの話が語られ始めた。
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