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「細かいことまで気にするな。言葉の綾だ」
腰掛けてすぐに、郡也はジャージの内ポケットから煙草のボックスを出す。
「どうだ、善幸も吸うか?」
「馬鹿を言うな、それは単なる見栄張りだろう」
呆れ顔の善幸がそう言うと、郡也はその端正な顔に悪戯っぽい笑みを浮かべて煙草を元の場所に戻す。
「さすがだな、やっぱお前にはわかるか」
「当然だ、陰ではどうか知らないが、少なくとも表のお前はカッコつけたがりだからな」
善幸のこの指摘には、郡也も苦笑いで返すほかなかった。
その後、話すことが無くなった二人は、お互い黙ったまま、しばらく部室の騒音に耳を傾けていた。
「そういえば、あれ……大丈夫なのかよ?」
「ん?……旅館のことか。調べたけど何の噂も聞かないし、別に心配ないと思うぜ」
郡也が予約をとった旅館『山中棟』は、築百年近くになる老舗である。
しかし手入れが良いのか、老朽部分はあまり見られない。
そんな旅館に何故破格の値段で泊まれるのか、善幸はそれが妙に気にかかっていた。
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