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氷帝の天才とも呼ばれる忍足は心を閉ざすことができる冷酷な人間だ。などと、レギュラーになれなかったテニス部員達や男女問わず好かれる忍足に妬みを持つ一部の人間達から根も葉もない噂をたてられたりもしている。心を閉ざすなどテニスのプレーの一部でしかないのに、忍足を悪く言う奴等を宍戸は酷く嫌った。
でも忍足は何時だって《言いたい奴には言いたいこと言わせといたったらええんや》
なのだ。それを宍戸は気に入らないけれど忍足のそんな所が好きなんだと言う。
「…侑士」
名前を呼ぶことなんて滅多とない。でも実感するのだ、忍足のことをこんなにも大切に想っている自分がいるということを。
「なんやの宍戸…珍しいやんか、名前なんか呼んで」
クスクス、と肩を揺らして笑う忍足に一瞬びっくりしたが、あぁコイツなら寝たふりぐらい簡単にしそうだなぁと思ってしまう辺り、忍足はいつも宍戸の不意を突いたり驚かせたりをするのだ。
「えらい可愛えなぁ?俺が寝てる時に甘えたさんかいな」
「うっせ、起こしてやろうと思ったんだよこの宍戸様が優しくな」
「はは、そりゃまぁ亮ちゃんの目覚ましボイスなんてこの上ない贅沢やわなぁ」
「だろ。よし、帰るぞ」
「ちょ、待ってぇな俺待っててあげてたんやで感謝してほしいわ」
「てめーが待っといたる!なんて言いだしたんだろーが」
「もう、待ってて欲しそうな顔してたくせに甘えんぼやわ亮ちゃん」
「いーんだよ忍足にしか甘えねぇもん」
「……反則とちゃう?ソレ」
敵わんわぁって、情けなさそうに笑う忍足に俺はまた満足する。俺だけが知ってるコイツのことがたくさんある。こうやって少し照れた顔、瞳には俺が映る。なぁ忍足、俺はこの瞬間が一番好きだと言ったならきっとまた綺麗な顔で、笑うんだろうな。
end
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