ミラクル

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「近寄るなゲス」  と言った。  蛆虫を見るような目で。  彼女はそのままどこかへ立ち去ってしまったけど、僕はよりいっそう僕が主人公であるという確証を得た。  男性が苦手な女の子がいるのもまた、一部物語のお約束だ。  無理してなんかいない。  人がいなくなった中庭にポツリと立ち尽くしていた僕は、次のステップを踏むべく職員室へと向かう。  徐々に前進していくのが主人公というものだ。 「失礼します」  僕は職員室に来た。思えば、生徒を誘おうとしたのが間違いだったのだ。  時代のニーズというものは常に移り変わる。  古いものを踏襲しつつも新しいものをつくり出すことこそが、物事の真髄。  同じ学校の生徒と旅にでるなんてありふれたネタでは、もはや時代のニーズにはついていけないのだ。  そこで僕が目をつけたのは教師。  教師と旅に出るというのは、なかなかに斬新ではなかろうか。  これはきっといい物語になる。  僕は確信した。 「先生方、お話があります」  僕はこう見えて優等生だ。  素行もよく、成績もそこそこなので教師からの印象は悪くないだろう。  神妙に話す僕の態度を見て、クラスの担任もただ事ではないと察してくれたようで「どうした?」と近づいてきてくれた。 「お前が相談なんて珍しいな。  朝のホームルームのアレはやっぱり何かあったんだな?」 「ええ。もちろんです」  なんたって一緒にミラクル探しの旅へ出る人を見つけるためですから。  まずは仲良くなろう。  僕は溢れるユーモアセンスを駆使する。 「それで話っていうのは?」 「先生ちょっと手をこちらに……」 「ん? ああ、ほらよ」 「お離し(お話し)っ!」 「お前退学」  僕は退学になった。  ユーモア失敗。  退学となった僕はその後親に勘当され(実家マジ厳しい。学校もマジ厳しいよね)、明日をも知れぬ浮浪者に。  公園でホームレス生活を送ったり、マグロ漁船で一本釣り狙ったり紆余曲折した末に、何と僕はアメリカの大統領になった。  そして全米遊説(ゆうぜい)で僕は――、 「I declare it now here! (僕は今ここに宣言する!)  Miracle is splendid!! (ミラクルって素晴らしい!!)」  ミラクルの素晴らしさを全米に伝えた。         ~完~
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