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相変わらず生温い風が吹き抜ける林の中。一分ほど歩いただろうかという所で、湾曲した道の先に、赤い棒が立っているのが見えた。
「多分、あれが折り返し地点ですね」
「そっか。じゃあ、もう半分なんだな」
早いところ試験のプレッシャーから解放されたくて、自然と早足になる二人。
しかし、脇の茂みから突如獣らしき影が飛び出してきた。
「わ、何だ!?」
相手の動きが速すぎて、アクアは反射的に後ろへ跳ぶしかなかった。
道を塞いだのは三匹の獣。猫に似ているが大型犬と同じほどの体長があり、ナマズのように長い髭と、頭部にはトサカまで生えている。
それから少し遅れて、茂みから軍服を着た一人の女性が出てきた。彼女の服装は試験官と同じものだ。
これはまさか、とある一つの可能性をアクアが考えていると、口を開いたのは濂青の方だった。
「アクア、この獣はおそらく……」
作戦会議の時のこと。アクアと濂青はこんな話をしていた。
『えぇっ、魔獣!?』
『はい。今年から導入されるかもしれない、という噂があると、親から聞きました。といっても野生のではなくて、魔獣使いによって調教された魔獣ですけどね』
素っ頓狂な声をあげたのはアクアで、淡々と説明するのは濂青。
そんなの初耳だ、とアクアは彼に対し遠慮無しに疑問をぶつける。
『実技で魔獣と闘う? マジか? ってか魔獣使いって、そんなに都合良くいるのかよ?』
『近年、紋章術研究が進歩したことで、だいぶ人数が増えているそうです』
『っはぁー、さすが軍人一家、物知りだな』
この話を聞けた事については、濂青がパートナーであった事は幸いだった。そして、その話を聞いていたからこそ浮かんだ、可能性。
「……魔獣、か」
「と、魔獣使い。間違いないと思います」
二人のやり取りに、軍服の女性が応じる。
「よくご存知ですね。第ニ戦の相手は、この三匹の魔獣です。本来ならば鋭い爪と牙を持ちますが、試験用ということで危険な部位は短く削ってあります。なので、存分闘いに集中してください」
彼女の話したとおり、その辺りはアマチュアの受験生が相手ということで、協会側も上手く調整していることが窺える。レンの奴脅かしやがって、という気持ちも正直あったアクアだが、不安が取り払われると、魔獣との一戦が少し楽しみになってくる。
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