第一章:登用試験

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(上等だ、かかって来い魔獣!)  性別迷子な少女は、血気盛んな少年のように眼光鋭い笑みを浮かべた。  二人が剣の柄に手を添え、充分に下がったところで、女性魔獣使いは首から下げたホイッスルを指でつまんだ。 「では、行きますよ……始め!」  ピッ、とホイッスルが高らかに鳴ると、三匹の魔獣が一斉に駆け出す。素早い。  うち一匹がアクアの胸くらいの高さまで跳躍すると、爪を振りかざして飛び掛かってきた。 「うおっと!」  アクアは後ろへ下がりながら、どうにか剣を振ることで受け流す。一匹だったからまだ良かったが、二匹以上で来られたら避けきれる保障はない。一瞬でも戦いが楽しみだと思った自分を恥じた。 「アクア、大丈夫ですか? ……うわっ!」  一方の濂青も魔獣に襲い掛かられ、守備に追われる。 「くっ、ディープフリーズ!」  体勢を立て直したアクアは、紋章術で氷弾を放つも、クリーンヒットしない。 「駄目だ、素早くて当たらねぇ」 「このままでは埒が明かないですね……。何か方法を考えましょう」 「わかってる。でも、オレ達が使える術の中で、動きを封じられるようなものがねぇんだよ」  さっきのディープフリーズは、当たれば相手を凍結させることができるが、当てられなければ意味がない。  最悪、襲撃を受け流しながら制限時間まで逃げ切る、あるいはいつか当たるのに賭けてがむしゃらにディープフリーズを放ち続ける、というのもありだ。けれど、そういう計画性のない戦い方は消耗が激しく、減点の対象にもなる。  考えている間にも二匹がアクアの方へ向かって来て、一匹の攻撃はサーベルで弾いたが、もう一匹の爪が大腿を掠めた。鋭いままの爪があったら裂傷ものだ。これは確実に減点される。いよいよまずいと思えてきた。  何か策はないか――。焦るアクアの心の声を聞いたかのように、無口な濂青が徐に答えた。 「……一つ、あります。足止めできるかもしれない術」 「マジか」 「あまり使わないので、効果が充分に出るか分かりませんが……」  期待した結果が得られるかは分からずとも、このままやられっ放しより、一か八かでも何か試してみた方がマシだ。 「構わねぇ。撃ってみろ」  アクアは即答した。
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