第一章:登用試験

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 濂青は頷くと、水属性魔術のそれとは違う、紫苑の輝きを放つ魔法陣を展開させた。闇の魔術だ。 「ダークネス!」  三匹の魔獣のうち一匹の頭上にカーテンのような黒い霧の幕が出現し、ふわりと下降していく。  魔獣は警戒したらしく、その場でトサカを逆立て、威嚇している。あの素早かった動きが、止まった。  いけるかもしれない。アクアは幕が被さる瞬間に来るであろうチャンスを狙い、少しだけ待った。そして。 (当たれ! ディープフリーズ!)  伸ばした指先から、凍結作用をもつ魔力の塊が、真っ直ぐに漆黒の幕を突き抜ける。 「ギャウ、ギャウ! ガルル……」  暴れ回るような魔獣の啼き声が聞こえた。命中したかどうかはまだ見えない。  だが黒霧が徐々に晴れていくと、右半身が凍結し、藻掻いている魔獣の姿を確認できた。  当たったのだ。  百パーセントの命中ではなかったが、動きを封じるのには充分。よしっ、とアクアは拳を握った。……が。 「……っはぁ、上手く、いったようですね」  一方の濂青。闇の魔術を解除した時には息が切れていた。不慣れな術を使うと、得意な術を使うのに比べて、消耗の度合いが大きいのだ。  それでも今は、その術にしか活路を見出だせないのも事実。 「悪いなレン、もう一発だけ頑張れるか?」 「あと一発で……決められますか?」  一発。つまりヘマはできない。少女は少し視線を下に落とし、喉から息を零した。次の一撃が重要だというのは当然、分かっている。緊張も、ないと言えば嘘になる。  でも、行くしかない――それだけは確かだ。  大きく吸い込んだ空気を吐き出しながら、言葉を放つ。 「……決められるじゃねぇ。決めるさ!」  その言葉を聞いた濂青は袖で額を拭い、あどけない双眸に活力を宿した。 「では、必ず決めてください。……いきます!」  虚空に再び現れた漆黒の幕。威嚇する二匹の魔獣。  タイミングは先程と同じだが、今度は二匹いる。ディープフリーズで一匹を狙うのもありだが、制限時間を考えると、なんとか二匹いっぺんに一撃叩き込めないか。アクアは最善策を探る。  双牙や瞬耀もせいぜい一匹しか狙えない。複数を攻撃するために一番確実なのは、“あの剣技”を近距離で撃つこと。
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