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一発で決めると約束した。勝負の一本。
剣の柄をぐっと強く握りながら、覚悟を決め、黒霧の幕に向かって地を蹴った。
次も紋章術を放つだろうと思っていた濂青は、いきなり前方に飛び出して来た彼女の姿に、アッと目を丸くした。
「水鏡っっ!!」
弧を描いた剣から生じた衝撃波とともに、黒霧が煙のように飛散。
同時に、二匹の魔獣が宙を舞う。
バランスを失い、地面に落下した二匹は、ヒャンと仔犬のような鳴き声をあげた。こうなると、もうそれ以上の抵抗をしては来なかった。
鳴り響くホイッスル。
「そこまで! 第二戦、通過とします。先へ進んでください」
手短に言うと、魔獣使いの女性は慣れた手つきで三匹の魔獣に鎖を繋ぎ、コースの外へと離れていった。
「やった……」
「ふぅ……っ。急に突っ込んでいくから、ひやっとしましたよ……。でも、よく一撃で決めてくれましたね」
ほとんど吐息だけの小さな呟きを漏らして剣を鞘に戻した少女の後ろで、地面に膝をついたままの少年が本音を零す。が、二人の表情は共に明るい。
緊張から一気に解放されたアクアは、力が抜けてふらついた足をなんとか踏ん張り、パートナーの方を向く。
「へっ……心配されてるようじゃ、まだまだだな。でも、あんたの術のお陰だ。ありがとな」
濂青はまだ呼吸が速かったが、折り返し地点の赤い棒がもうすぐ近くに見えていたため、休むのを後回しにして立ち上がる。
「さあ、早く折り返しましょう」
互いを讃え合った二人の士官学校生は、確かな手応えを胸に、奥を目指して歩いていった。
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