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が、次の刹那。
「……アクア! 危ないっ!」
アクアは濂青にいきなり右肩を強く押された。体の重心がぐらりと傾き、何か大きな影が自分達の上を掠めていったのを認識する。
俯せに並んだ格好で二人、道の脇に生えた草の上に倒れ込んだ。
「えっ、ちょっ……三戦目か!?」
戦闘の回数は、受験する人によって二回だったり三回だったりするらしい。だから、これが三戦目だと思い、アクアはすぐに体を跳ね起こしたのだ。しかし。
「うぅっ……」
「……レン! 大丈夫か!?」
視界に飛び込んだ赤の色に、思考が止まりかける。傷だ。濂青が背中に傷を負ってしまった。その長さは、ニ十センチには及ぶ。赤い血が濃紺の訓練着に染みて、どす黒い嫌な色を生む。痛々しくて見ていられない。
(早く、治癒の術を使わないと……!)
「ヒールミスト!」
無我夢中で詠唱。淡い水色の魔法陣を広げ、左胸の紋章に引き込んだ魔力を治癒の力に変えていく。
そして治癒を行いながら、すぐにでも逃げ出したいような恐怖に抗い、奇襲を仕掛けてきた相手の正体に視線を合わせた。
巨鳥のようなその翼を広げれば三メートルにはなるだろう。だが嘴<クチバシ>はなく、毛むくじゃらで口がどこにあるのかも分からない。獲物を引き裂くためだけにあるとしか思えない鋭利な爪に、身が慄<フル>えた。
同時におかしい、とも思う。調教されている魔獣なら、鋭い爪を生やしたままにはしておかないし、いきなり襲う訳がない。それどころか、試験官の姿も見えない。
良からぬ予感が頭に浮かんだ時。
「アクア……こいつ、多分野生の魔獣ですね」
口を開いたのは濂青。治癒魔術によりようやく出血が止まり、上半身を起こすことができていた。まだ残る痛みに、顔が歪んでいたが。
「やっぱり、そう思うよな。でもどうしてだ? ちゃんと試験官が見張ってるはずだろ」
「外から紛れ込んだんでしょうか。僕にもわかりません」
不意に毛の下に隠れていた魔獣の口があらわになり、二人に向けて火炎が吹き出される。
「うわぁっ!」
またも草の上を転がり、間一髪で回避。着慣れた訓練着のあちこちに緑の色素が付着するのも、気にしている余裕などない。
何より腰が抜けて、奮い立つ力も、残ってはいなかった。
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