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直感した。――勝てない、と。
負けん気は人一倍のアクアにとって、こんな風に感じたのは初めての事。
魔獣が現れたら戦うしかないと、自分で言っていたし、解っていたはずだった。なのに体は竦み上がり、動くことができずにいる。
(助けは来ないのか? オレは一体、どうすればいい? どうすれば……)
何も出来ない自分が情けないとか、そういう次元ですらない。
戦意喪失。
このまま、試験に合格も出来ずに魔獣に食われて終わるのか――と思われた、その時だった。
「シャイニー・ソーン!」
聞き覚えのない声と共に、まばゆい閃光を放つ幾筋もの針が魔獣を捕える。
(紋章術!?)
アクアが呆気に取られたまま様子を見ていると、光針を刺された魔獣は体が痺れ、身動きを封じられたようだ。
「間に合ったか」
その声のした方を見遣ると、武装した傭兵らしき人物の姿があった。頭の大部分は鉄製の兜で覆われていて、髪の金色が少し見えるだけで素顔はよく分からない。
「誰……?」
「遅くなってすまなかった。野生の魔獣が試験場に侵入したとの報告を受け、救援に来た。俺はこの近辺を拠点とする傭兵団の者だ」
救援という言葉に安堵し、助かった……と一気に体から力が抜けかけたアクアだったが、ふと自分達がまだ試験場にいる事を思い出し、慌てて背筋をピンと伸ばす。
「あっ、ありがとうございます!」
「怪我はないか?」
「オレは、大丈夫です。けどもう一人が傷んで……一応、応急処置はしましたけど」
「見せてみろ」
傭兵の男性はそう言うとこちらにやって来て、濂青が背中に負った傷痕を覗き込んだ。兜の隙間から見えた瞳は優しい、深い碧緑色。
「鋭く入ったな。かなり痛むだろう。だがそう深くはないから、適切な治療をすれば大丈夫だ」
「そうですか。よかった……」
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