第一章:登用試験

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 しかし安心したのも束の間。 「グゴォォ……」  暫く静かだった魔獣が、おぞましい呻き声をあげた。それに戦慄したアクアを庇うように、名も知らぬ傭兵は素早く身構える。 「おっと、もう痺れが消えたか。早いとこ、けりを付けないとな。……君、名前は?」 「アクア・ラマンカリアです」 「ではアクア、引き続きパートナーの手当をしていてくれ。傷が開くといけないからな。今、俺がヤツを仕留めてくる」 「わかりました……恩に着ます」  踵を返した傭兵は、魔獣とはまだ距離がある位置で立ち止まり、右手に握った長剣を高く掲げた後、青白い輝きを放つ魔法陣を周囲に広げる。  アクアは治療を続けながら、その一部始終を見届けることになった。 (魔法剣か……!)  その場の魔力が、一本の長剣に吸い込まれるように集まっていく。 “すげぇ”  その一言しか、感想を述べられない。  刃は純白の光子を纏った。その聖なる光は次第に膨らみ、まるで暗い林の中に太陽が出現したかのようだ。  充分な魔力を孕<ハラ>んだ剣が、弧を描くように振り下ろされる。 「フォトン・ブレード!」  その一振りから直線状に伸びた光に、魔獣は呆気なく身体を取り込まれ、全く動けなくなった。  更に魔獣の身体は、酸に入れた金属が溶けるかのように、細かな粒を発しながら拡散し、みるみる小さくなっていく。 (これは……浄化魔法!?)  光属性魔術の一種である浄化魔法。異常なミスティックフローが凝縮した魔獣の身体を粒子レベルで分解できる、強力な術である。その代わり、かなり高度な訓練を受けなければ習得は難しい。その力を武器に付与する魔法剣となれば尚更だ。  そんなワザを使いこなせるとなれば、それは相当な使い手である事の証。  一体、この傭兵は何者なのか――。  瞬きを幾度か繰り返した後には、あの恐ろしい魔獣の姿は、跡形も無かった。
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