566人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふぅ……ちょっとやり過ぎたか」
颯爽と長剣を鞘に収める傭兵。右目は髪に隠れ、顔の下半分も鉄の防護面で覆われているため表情を窺い知ることはできない。が、その立ち居振る舞いは余裕に満ちていた。
「あなたは……一体……」
彼がただ者ではない気がして、アクアはついそんな言葉を漏らしてみるが――。
「言ったはずだ、この辺りの傭兵だと」
あっさり受け流されてしまい、必死に別の問い方を探す。
「あ、えっと……、どうしたらあんなに高度な術を使えるんですか?」
「初めから使えたわけじゃない。訓練を受けて、沢山修業もした。だから君も、更なる高みを目指すのなら、努力することだ。……そうだ、ここで会ったのも何かの縁。これをやろう」
彼が懐から取り出したのは、葉書ほどの大きさがある革のケースに入れられた、証書らしきもの。
「それは……?」
「これが示す場所へ行けば、君はもっと強くなれるだろう。勿論行くかどうか決めるのは、君自身だ。よく考えるといい」
「あ、ありがとうございます……」
なんだか満足のいく答えを引き出せていない気もしたが、とりあえず貰える物は貰っておこう。と、アクアは書面を受け取り、それに記された文字へと視線を下ろす。
……読めない。
いや正確には、文字自体は見たことがあるが、読めなかった。記憶が正しければ、それはかつてミルオール大陸で使われていた文字のハズ。
よく見れば文字だけではなく、エンブレムも描かれている。一対の翼、その間に逆さに突き立てられた剣、周囲に太陽のような環。しかしそれが何のエンブレムだったかも、また記憶が不確かである。
「あの、これが示す場所って……あれっ?」
アクアがどぎまぎしている間に、謎の傭兵は濂青の傷がほぼ塞がったのを確認し、肩を貸して立ち上がらせていた。
「彼の傷はもう大丈夫だ。治療への協力、感謝する。さあ、早く出口まで行こう」
タイミングを逸してしまい、遂に尋ねる事は叶わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!