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「試験監督、受験生を保護しました。男子学生が負傷していましたが、応急処置は済んでいます」
傭兵の男性がそう呼び掛けた林の出口には、赤い軍服を着た試験監督ネリア・ダイアグラスの姿があった。
「ご協力感謝します」
彼女はそう答えると、束ねた青い髪を揺らしながら、心配そうな面持ちで、真っ先に負傷した濂青の元に駆け寄る。
「絖濂青くんね、怪我は大丈夫?」
「はい、治癒の術を受けたので、もう平気です」
「ごめんなさいね。私が魔獣の侵入にもっと早く気づいていれば……」
ネリアが次に見遣るは、かつて自らの息子とよく遊んでいた少女。
「アクアちゃんよね?」
「あ、はい。お久しぶりです」
「あなたにも大変な思いをさせてしまったわね……」
本来ならば喜ぶべき再会が、このような形になってしまったのを悔やんだ彼女の声は、暗く沈んでいた。
「……いえ、大丈夫です」
アクアも咄嗟にはそれしか返す言葉が見つからなかったが、少しの沈黙の後、そういえば試験はどうなるんだろうという疑問を思い出し、事務的に尋ねる。
「実技試験の方は、やり直しになったりとかしませんか?」
それを聞いたネリアが試験監督の顔に戻るのには数秒かかった。されど姿勢を正し、本来のはきはきとした声音で答えを返す。
「ああ、そうだったわ……説明しなきゃね。二回の戦闘は正常に行われたと係の者から聞いているから大丈夫。それを元に、ちゃんと判定されるわ」
「そうですか、良かった……」
ようやく場の雰囲気が和んだ時、二人の受験生を助けた傭兵は。
「それでは、私は別の任務に就きますので、これで失礼します」
一礼して数歩離れ、「またよろしくお願いします」というネリアの言葉を聞くと、背を向けて去っていった。
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