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なぜそうしたのか彼にも分からない。ただ、体が勝手に動いたのだ。
するとなぞった文字が輝きだし、それは扉全体に広がっていく。
『来たか。』
突然声が聴こえた。だがそれは、耳からではない。直接、青年の頭に語りかけられているような感覚だった。
だが、青年は特には驚かなかった。どこから話しかけているのかは分からないが、これから起こることはその扉に記された輝く文字が教えてくれていたからだ。
通常なら読み切るのに丸一日かかるであろう分量を青年は一瞥するだけで理解していた、いや、知識が頭の中に流れ込んで来ていた。
『長かった、この日が来るのを待つのは。』
また頭の中に声が響く。
「なぜ俺を呼んだ?」
『聡明なお主には分かっているだろう?』
「虚無を滅するのか?」
『ああ。そのために我ら十人は今まで待ち続けた。
世界の天井となり、ただ人々を世界を守るために・・・・・・』
「偽善だな。」
頭に響く声を青年はバッサリ切り捨てた。
「これまで俺は何人もの人が死ぬのを見た。子供もいた。
人一人守れないやつが世界を守るだと? 笑わせるな。」
もしこの声の主が前にいたら恐らく顔をしかめただろう。
それほど青年の言葉は正しかった。
『では、お主はその人々を見捨てるのか?』
だがその一言で立場は逆転した。
『お主も見ただろう、あの惨劇を。』
その言葉に青年の脳裏に先日の三人の姿がよぎった。
『このまま放っておけば、機械兵士に人々は駆逐されるだろうな。』
なんの緩衝材もなく、ただ整然と伝えられる現実。
青年にはもう選択肢は残されていなかった。
「どうすればいい?」
『簡単だ。我を通れ。それでお主は無色の世界へと行ける。』
そこで初めて、青年はさっきから話しているのが目の前の扉であることに気づいた。
『今、無色の世界から放たれた魔力により他の世界の時は止まっている。』
「ならなぜこの世界は動物だけに・・・・・・」
『私のせいだ。』
青年には意味が理解できなかった。
「どういう意味だ?」
『私は『十人』の中で最も魔力が多かった。
それが無色から流れ込む魔力を幾ばくか打ち消し、このようになったのだろう。』
「ということは、俺が行ってからもこの世界は動き続けるのか?」
『私の力でこの世界の時を止める。』
「そんなことが? だが、それならなぜ早くに発動しなかった?」
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