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荒野を駆けていた青年は、若干車体を滑らせながらもその鉄の馬を止めた。
「・・・・・・」
青年は無言で『自動二輪(バイク)』を降りると、それを倒れないように立て、歩き出した。
体を覆うように纏われたダークグレーのロングコートが砂を巻き上げた風にはためく。
その下にある黒いブーツで砂を潰す音を響かせながら、青年は数歩歩いたところで立ち止まった。
そこは平坦な荒野に一つだけ、忘れ去られたように残された高台だった。
足下にあった石が崖の下へ凄い勢いで転がり落ちる。だがそれを気にせず、辺りをゴーグル越しに見渡した。
何もない荒野、だがその向こうには依然として巨大な門が聳(そび)え立っている。
「・・・・・・」
青年は無言のまま、その凍てつくような視線を今度は足下へと向けた。
カランという音と共に足下からまた一つ石が転がっていく。
垂直に近い崖を落ちていく石の先、そこには街があった。
青年はしばらくそれを見つめていたが、はためくコートと共にきびすを返すと、自分を待つ『自動二輪(相棒)』の元へと歩き出した。
相棒の元へ戻ると、青年は立ててあった黒い狼を彷彿させる車体(ボディ)に跨り、一度ゴーグルをしっかりと押さえた。
次に、手に付けているレザーグローブをはめ直し、バイクのグリップを強めにひねる。
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