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獣の吼え声のような爆音をあげるバイクから一度手を離し、後ろを振り返った。
先ほどまでは何もなかったハズのそこに奇妙なものがあった。
ガッガッ
規則正しい足音と共にその後ろから現れたのは、金属製の人間と言うべきか、人と同じ四肢を持ち、二足で歩いている物体。
だが、その顔にあるのはただ1つだけの目。
それは、この世界で『機械兵士』と呼ばれるものだった。
その体の中心にある赤い球体も奇怪だが、それよりもその両腕に備えられた人一人ほどもある長銃は、異形だった。
それを視認すると、青年は焦ることなくバイクのグリップを握り、先ほど以上に強くひねった。
また爆音を辺りに響かせながら、それはその先へある崖へと駆け出した。
それを追うように2つの獣が嵐のように吼える。
「・・・・・・ふっ」
軽く息を吐くと同時に、青年はためらいなくそのまま高台から飛び出した。
彼の黒、というより紺に近い少し長めの髪が風に靡く。
その後に続いて機械兵士もまた飛び降りた。
まだ射撃は続いている。
それを落下中にも関わらず器用に交わしながら、青年は右手を右太もものホルスターへ伸ばし、何かを引き抜いた。
それは漆黒の銃。
それを手に、青年は左手でグリップを握ったまま、バイクを蹴った。
その反動で彼の体は持ち上がり、バイクの上に逆立ちした状態になる。
それから後はもう一瞬だった。
不安定な体勢のまま銃を構え、引き金を二度引く。
漆黒の銃から放たれた弾丸は寸分違わず、機械兵士の両腕にある銃口に突き刺さった。
その衝撃に銃に入っていた弾丸が起爆。機械兵士の両腕がもぎ取られる。
そして青年は、トドメの一発を放った、その赤い『心臓(コア)』へと。
ピシッというガラスの割れるような音を耳に入れながら青年は銃をホルスターに戻した。
しっかりと両手でグリップを握り、逆さになった体をバイクの上へ引き戻す。
その時にはもう地面まで残り5メートルほどしかなかった。
だが、青年は焦らない。
体重を少し後ろに乗せることで車体の傾きを出来る限り緩め、そのまま前輪から着地した。
何十メートルも上から落ちてきたとは思えない、滑らかな着地。
それを成し遂げた彼の後ろで派手な衝突音。次いで爆音が轟いた。
それでも彼は振り返らない。
その漆黒の瞳は、ただ前だけを見据えていた。
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