37人が本棚に入れています
本棚に追加
それから数十分。
青年を乗せていたバイクは、先ほど高台から見た街の入り口で止まっていた。
青年は街の中へ踏み込むが、そこはなにやら異様な静けさに満ちていた。
この街で最も大きいであろう通りを歩いているにも関わらず、何も動いているものが見当たらない。
ただそこにあるのは、しおれた果物を乗せた屋台と、それを見張っている等身大の人形だけだった。
「ここもか・・・・・・」
初めて聞く青年の声は、まだ20にも満たないであろう容姿とは違い、何か重さが感じられた。
青年は首を巡らせながらゆっくり歩き出し、近くに置かれている人形の前で立ち止まった。
何かを書いた紙を手に持つ女性の人形。とても精巧なそれに手を伸ばし、青年はゆっくりとその肩を掴んだ。
人形特有の鉄のような感触がその手に伝わる、ハズだった。
「・・・・・・やはりか。」
だが、その手から伝わってきたのは、生物のみが持ちうる柔らかさだった。
そう、その人形は紛れもない人間だったのだ。
青年はもう一度辺りを見渡した。
店の中で客を呼び込む中年の男、
通りを駆け回る少年、
飼い主に連れられている犬、
青年を除いた全てが止まっていた。
「何が起こっている・・・・・・」
青年は彼が元々住んでいた村を合わせ、すでに5つの街で同じ現象が起きているのを見てきた。
だが、原因が分からない。
道中にかなりの蔵書数を誇る図書館を幾つか見てきたが、全く記述がなかった。
だが、青年にはただ一つだけ、宛があった。
それは今も顔を覗かせている、この現象と同時に現れた、巨大な門。これこそが全ての原因、彼はそう考えていた。
それから放たれる何か禍禍(まがまが)しい気配。それもまた、その予想をより確信に近いものに変えていた。
ここにもう用はない、と判断した青年は元来た道を引き返した。
最初のコメントを投稿しよう!