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パキッ
何か硬い枝が潰れる音が後ろから聞こえた。
それに青年は無表情のまま右足から銃を引き抜き、振り向きざまに放った。
漆黒の銃から放たれた弾丸は、かん高い金属音と共に弾かれ、近くの窓を突き破っていく。
それを弾いたものは、先ほどとは比べものにならない、巨大な機械兵士だった。
あまりの巨大さのためか、それには足がなく、代わりに幾つもの巨大なタイヤが取り付けられている。
岩壁のような巨体、だが青年はそれよりもその足下を見ていた。
押し潰した、固まったままの人々を。
「・・・・・・クズが。」
青年は瞳をぎらつかせながら、コートをはねのけ、左足からもう一丁、漆黒の銃を取り出した。
それを指を一本も余らせることもなく握り締め、一気に駆け出す。
そんな青年を目掛けて、巨体の両脇に取り付けられた銃が火を噴いた。
正確に補足し、全自動(フルオート)で放たれる無数の弾丸。途切れることのない連射。
だが、そのどれもが、彼を捉えられない。
それどころか、彼の後ろや横にいる固まった人達にすら当たっていなかった。
一度射撃を止めると、銃の中から何かが回転するような駆動音を奏で、兵士はまた銃を放った。
それによって、彼の後ろにある屋台が、荷車が、扉が、はじけ飛び粉砕されていく。
明らかにその火力は上がっていた。
だが彼は当たらない、止まらない。
青年は前に腕を突き出し、それを横に振るった。
それと同時に空中に奇怪な文字が並んだ円形の図形が現れる。
「貫け。」
その声が発せられると同時に、機械兵士の下部にあるタイヤがごっそりもぎ取られていた。
『ビ、グ、ァ』
機械なりの悲鳴なのか、不快な電子音が発せられる。
その原因となった攻撃、それは物理的に有り得ない現象。
だがこの不可能を可能にする術がこの世界にはあった。
その名は『魔術』。
通常、手のひらに炎を出すことは出来ない。
だが、それを『魔術』は可能にする。
血管、神経などの管と共に体中に巡らされている『魔神経(ナーブ)』。
そこに流れている魔力と呼ばれるものを構築した術式に流し込むことで世界に新たな事象を書き込む。
この手順によって手のひらに炎を生み出すことができるのだ。
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